データガバナンス入門ガイド

データガバナンスと法規制遵守の関係性:法務・コンプライアンス部門が知るべき重要性

Tags: データガバナンス, 法規制, コンプライアンス, リスク管理, 個人情報保護法

データ活用が企業の競争力強化に不可欠となる一方で、個人情報保護法をはじめとするデータ関連法規制は年々強化され、その遵守は企業にとって喫緊の課題となっています。法務・コンプライアンス部門におかれましても、増大するデータリスクへの対応や、データ管理体制の不備解消が重要な責務となっていることと存じます。

このような状況において、「データガバナンス」は、単なるIT施策ではなく、企業の法規制遵守およびリスク管理体制の根幹をなすものとして、その重要性が改めて認識されています。本稿では、データガバナンスが法規制遵守にいかに貢献するのか、法務・コンプライアンス部門の視点から解説いたします。

データガバナンスとは何か:法規制遵守の観点から

データガバナンスとは、組織が保有するデータを「いつ、誰が、どのように利用・管理するか」に関する方針や規程を定め、それに沿ってデータを適切に扱うための仕組み全体を指します。これには、データの品質確保、アクセス権限管理、セキュリティ対策、プライバシー保護、そして法令遵守などが含まれます。

法務・コンプライアンスの観点から見ると、データガバナンスは以下の目的を達成するための不可欠な要素となります。

主要なデータ関連法規制がデータガバナンスに求めること

データガバナンスは、多様な法規制の要求事項を満たすために機能します。主要な法規制がデータに対して求める一般的な要件と、それに対するデータガバナンスの貢献を見ていきましょう。

  1. 個人情報保護法(日本):

    • 求めること: 利用目的の特定・通知・公表、同意取得、安全管理措置(組織的、人的、物理的、技術的安全管理措置)、正確性確保、開示・訂正・利用停止等の請求への対応、漏洩時の報告義務など。
    • データガバナンスによる貢献:
      • データの利用目的を明確に定義し、管理する仕組み(メタデータ管理)。
      • 同意管理プロセスの標準化と記録管理。
      • アクセス権限管理規程と技術的な仕組みの導入。
      • データのライフサイクル管理(保存期間、破棄ルール)の策定と実行。
      • インシデント発生時の対応計画(IRP: Incident Response Plan)の整備と訓練。
  2. GDPR(EU):

    • 求めること: 適法性、公正性、透明性、目的制限、データ最小化、正確性、保存期間制限、完全性・機密性、アカウンタビリティ。特に、データ主体の権利(アクセス権、消去権「忘れられる権利」、データポータビリティ権など)への対応、DPIA(データ保護影響評価)の実施、データ侵害通知義務。
    • データガバナンスによる貢献:
      • 処理活動の記録(RoPA: Records of Processing Activities)の維持管理。
      • データ主体の権利行使に対応するためのプロセス構築。
      • DPIA実施のためのフレームワーク整備。
      • 国境を越えるデータ移転ルールの明確化と遵守。
      • データ侵害時の迅速な検知・報告・対応体制の構築。

これらの例からも分かるように、データガバナンスは、法規制が求める個別の要求事項を、組織全体で体系的に満たすための基盤となるのです。

法務・コンプライアンス部門の役割

データガバナンス体制の構築において、法務・コンプライアンス部門は中心的な役割を担います。IT部門や事業部門と連携しつつ、主に以下の業務を推進することが期待されます。

  1. データ関連規程・ポリシーの策定: 個人情報保護規程、情報セキュリティポリシー、データ管理規程など、データを取り扱う上での基本的なルールを、法規制の要求事項を踏まえて策定・更新します。
  2. データリスクアセスメント: どのような種類のデータを、どこで、どのように取り扱っているかを特定し、それに伴う法務上・コンプライアンス上のリスクを評価します。特に、新規事業やシステム導入時には、初期段階からリスク評価に関与することが重要です。
  3. 契約レビュー: 外部委託先との契約や、他社との共同事業におけるデータ取扱いに関する条項が、法規制や社内規程に準拠しているかを確認・修正します。
  4. 教育・研修: 役職員に対し、データ関連法規制の基礎知識や社内規程、データ取扱い上の注意点に関する教育を企画・実施します。
  5. インシデント対応計画への関与: データ漏洩等のインシデント発生時における報告義務や、対応手順に関する計画策定に関与し、有事の際に法的に適切な対応が取れるよう準備します。
  6. IT部門との連携: IT部門が構築する技術的なデータ管理基盤やシステムが、法務・コンプライアンス上の要件を満たしているかを確認し、必要な助言を行います。技術的な詳細を深く理解する必要はありませんが、「何をリスクと見なすか」「どのような管理が必要か」といった要件を明確に伝える能力が求められます。

まとめ

データガバナンスは、企業の信頼性を高め、持続的な成長を支える上で不可欠な基盤であり、特に厳しさを増すデータ関連法規制への対応においてその重要性は高まっています。法務・コンプライアンス部門は、データガバナンスの構築・運用において、法的な知見とリスク管理能力を活かし、規程策定、リスク評価、教育、そしてIT部門との連携を通じて主導的な役割を果たすことが求められます。

データガバナンスの推進は、単なる法規制遵守のコストではなく、企業がデータ資産を安全かつ効果的に活用し、競争力を維持・向上させるための戦略的な投資であると捉えることが重要です。貴社におけるデータガバナンス体制構築の一助となれば幸いです。